2025/8/25 COLUMN
実効性のあるパッシブデザインとは?
家づくりの世界でよく耳にする「パッシブデザイン」。
それは最新の設備や機械に頼るのではなく、太陽の光や風、季節の移ろいといった自然の力を上手に取り入れて、快適で省エネな暮らしを実現する設計手法です。
今回はパッシブとは何か?実効性のあるパッシブデザインについて解説します。
近ごろ「パッシブデザイン」という言葉をよく耳にするようになりました。
しかしその多くは「大きな窓で光を取り込む」「風通しのよい間取り」といったイメージ的な説明に留まっているのが現状です。
これでは“心地よいときもある家”でしかなく、再現性や確実性には欠けてしまいます。
一方で、本来のパッシブデザイン――つまり「実効性のあるパッシブ」は違います。
それは 自然エネルギーを科学的に扱い、四季を通じて快適さを安定して実現する設計手法 のこと。
シミュレーションや数値的な検証を行い、根拠を持って“必ず快適”をつくり出すことができます。
ここに、一般的な「なんとなくのパッシブ」と決定的な違いがあります。
では、実効性のあるパッシブを実現するために何が必要なのでしょうか。
その答えが「パッシブデザインの5要素」です。
① 保温(断熱・気密)
・住宅の断熱性が高い状態であることが、パッシブデザインの効果を最大限発揮するための重要な要素です。
②日射熱利用暖房
・冬季に太陽の熱を取り込み室内を暖房するために必要な要素です。
窓から室内に太陽の暖かい熱を取り込み、室内を暖める「自然の暖房」になります。
③ 日射遮蔽
・太陽熱は冬には有効ですが、夏は邪魔になるので、庇や外付けブラインドなど効果の高い付属部材で遮ったり、熱を外に逃がしたりする必要があります。
④ 自然風利用(通風)
・中間期に重要で、風を通すことによる排熱、そして風が体に当たることによってもたらされる涼しさ利用します。
⑤ 昼光利用
・太陽の光を室内に取り入れることで室内を明るくし、無駄な照明器具の使用を抑えるために重要な要素です。
これらを総合的に計画し、敷地や建物に合わせて最適化することで、初めて「パッシブデザイン」が完成します。
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表面的なパッシブは、一見それらしく見えても、実際の暮らしの快適性や省エネ性に直結しない「実効性のないパッシブ」になってしまいます。
では、具体的にどんなものが“実効性のないパッシブ”なのでしょうか?
パッシブデザインの大前提は「太陽の日射」を設計に活かすこと。
冬にどれだけ南面の窓に日射が当たるかを確認せずに窓を設計しても、十分な日射熱を得られないどころか断熱性能を落とすリスクがあります。
「冬は日射が入り、夏は遮る」と断面図だけで説明する事例もありますが、実際には夏至はまだ涼しく、冬至はまだ寒くない。
また正午前後は太陽高度が低くなり、結局日射が室内に入ってしまいます。軒や庇だけで“遮蔽できる”と説明するのは不正確です。
アメダスの風向データをもとに「このプランは風が通ります」と説明しても、実際の敷地では建物や道路条件によって風の流れは大きく変わります。
住んでみればすぐに「風が通らない」と気付かれるため、通風は“全方位通風”で計画する必要があります。
外皮性能の計算で「ηAC 値・ηAH 値」を示しても、申請用計算は「野中の一軒家」「固定値の庇影響」など実際の暮らしと乖離した条件。
現実の窓付属部材や運用を考慮できないため、実際の性能を正しく評価できません。
では逆に、“実効性のあるパッシブ”とは何でしょうか?
それは、 シミュレーションと数値検証を行い、自然エネルギーを科学的に活かした設計 のことです。
つまり、感覚やイメージではなく、以下をきちんと実践することが求められます。
・日射取得・日射遮蔽を季節ごとにシミュレーションして最適化
・通風は卓越風向ではなく敷地条件を踏まえた全方位計画
・外皮性能はUA値だけでなく、実際のηAC/ηAHを設計段階で把握
・付属部材(外付けブラインド・スクリーン等)を含めた運用を考慮
これらを踏まえて初めて、「四季を通じて快適」「再現性のある省エネ性能」を実現できるのです。
「パッシブデザイン」という言葉は広く使われるようになりましたが、その中にはイメージ先行で根拠のない“なんちゃってパッシブ”が少なくありません。
たとえば、日照シミュレーションをしない設計、軒や庇だけで日射を語る説明、卓越風向だけを根拠にした通風計画、あるいは申請用の外皮計算値をそのまま性能評価とするやり方…。これらはいずれも、暮らしの実際には結びつかない「実効性のないパッシブ」です。
一方で、実効性のあるパッシブデザインとは、
・日射・熱・風をシミュレーションや数値で検証する
・季節ごとの快適性を根拠をもって再現する
・外付けブラインドや庇など現実的な付属部材も含めて計画する
・断熱・気密性能をベースに、5つの要素を統合して考える
こうした取り組みを通じて初めて実現できるものです。
つまり、“たまたま快適な家”ではなく、“必ず快適な家”をつくる。
それこそが本物のパッシブデザインであり、住まい手にとっての安心と価値につながるのです。